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イリヤの空、散りゆく花火の夏 [気になったこと]

『イリヤの空、UFOの夏』全四巻読破。

読後の空気を何かに例えるとするなら、
ひとつだけ打ち上げられた花火の、
その星々の輝きや変わりゆく色彩を、
いつか消えてしまう未来を予感しながら眺めて、
ふいに訪れた黒い夏空に無力な空虚を思う感じ。

舞台設定や、全体のディテールは王道と言っていい。

UFO探しに明け暮れた中学二年夏休みの最後の日、
浅羽は夜中に忍び込んだ学校のプールで一人の少女と出会う。
両手首に金属球に埋め込まれた少女はイリヤと名乗った。

そこから始まる2学期は、暦の上ではすでに終わっているはずの、
熱を残しながら消えていく夏の物語。

こことは違う歴史軸を持つパラレルワールドで、
変な部長が活躍する新聞部や、主人公に仄かな想いを抱く同級生、
そして大量の薬を持ち歩き、ことあるごとに鼻血を出すイリヤ。

物語の中盤までは浅羽とイリヤの、今にも壊れてしまいそうな、
危うい距離感の中学校生活の描写で進む。

イリヤの背景にある、SF的要素は極力抑えられたまま。
読者も、普通の中学生である主人公と同じだけの情報しか与えられない。

常識外れで、幼くて、一途で、滅びを望む少女との関係性は、
後半、抗いようもなく終末に向かっていく。
こぼれ落ちる何かは一人の中学生には取り戻せるわけもなく、
ボロボロに傷ついて無力感に打ちのめされていく。

そしてUFOの夏は終わる。

まぁ、すこし古い作品だから、
今更気を遣わなくてもいいような気もするが、
一応ネタバレはしないようにアラスジってみたけど…
何が何だかわからんね。

少しだけネタバレするなら、イリヤは命を削りながら何かと戦っている。

その何かってのは最後までハッキリと描写されることはない。
それに象徴されるように、具体的な背景は見えるようで見えないまま、
バリバリのSFを求める人には味が薄くて物足りないかもしれない。

あくで日常生活の延長線上で描かれるこの物語の主題は、
中学生男子が生まれて初めて直面する世界の理との戦いだ。
誰しもぶち当たる、普遍的なテーマでもある。

それが謎の美少女と一緒ともなれば男子の夢、
先に述べたとおり、少年ストーリーの王道だと言えよう。

終始展開する浅羽の見る世界は、読みやすさを保ったまま、
心をざわめかせる綴りでさすがだなと思う。
中学生の持つエッジの純度が高い。

ただ、あえて抑えているSF背景のせいもあってか、
終盤やや強引気味にラストに持って行くのは少し拙速のような。
とはいえ、バッサリと綺麗に切り落とされたラストは、
定番のオチと言えど、鋭く余韻を残し穴を穿つ。

ここで冒頭に述べた感想につながる。

読み終わった後、読者の心の置き所を丁寧に用意しておく物語は多い。
例えるなら妖怪かまいたちのような。
三匹一組で、1匹目が対象を転ばし、2匹目が斬りつけ、3匹目が薬を塗って去る。
最近はアフターフォローまで含めてひとつの物語として提供される。

ただ、本来を振り返れば、
斬るだけ斬りつけておいて放置される物語のほうが多いわけで。

伝承の昔話とかそうだよね。

久方振りの斬り傷は、中学生チックな感傷に浸らせる。
中学生ってホント、ネタにしやすい年代なんだなぁ。


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